Abelmann




Walter H. Abelmann博士(1921〜2011)



ウォルター・エイベルマン博士は1921年にドイツ・フランクフルトで生まれ、スイスで教育を受けました。第二次世界大戦勃発の1939年にアメリカに移住、1943年にハーバード大学で医学博士となりました。

 
 ユダヤ系ドイツ人であるエイベルマン博士は、永世中立国であるという理由で亡くなるまでスイス国籍のままでした。さらに戦争の色が濃くなって来ると一族で親戚を頼ってアメリカに移り、ニューヨークに落ち着きました。いつ、どのような経緯で陸軍医となったのかは不明ですが、横浜に半年間駐留したのち、沖縄に赴任しました。沖縄では軍医として主に内科と心臓外科を担当していましたが、放射能医学の知識もあることから当時の陸軍では唯一の放射線医師としても勤務していました。博士は、毎週休みになると同僚であった精神科医のスタンレー・スタインバーグ博士の自家用車で沖縄中をドライブし、その時に撮影されたのが、これらのスライドです。

 
 沖縄に着任当時は知念村の高台にある陸軍司令部に勤務していましたが、1947年頃から北中城のライカムの近くにある病院に移ったと博士は記憶していました。

 
 エイベルマン博士とスタインバーグ博士は1946年夏頃、首里をドライブ中に偶然発見した「アートコロニー」の看板に興味を引かれ、「ニシムイ美術村」を訪れます。そこは戦後荒れ野となった首里で10軒ほどの木造のアトリエが立ち並び、画家たちが米兵の肖像画や沖縄の風景画などを描いていました。元々絵画に関心があった2人は、何度か足繁く通った後に玉那覇正吉のアトリエで絵を学び始めました。その頃に撮影されたのがニシムイのアトリエの玄関に立つ玉那覇一家の姿です。ニシムイのアトリエの写真が少ないなか貴重なものであるといえます。

 
 また同時期に撮影された玉那覇正吉、安次嶺金正、スタインバーグ博士の屋外での写生姿も珍しく非常に貴重なものです。これは司令部の近くの丘、もしくは那覇港近くで撮影した、と語っていました。博士は画家たちが依頼された絵を仕上げて、気分転換がしたいときや風景画の依頼があったときなどスタインバーグ博士の車に同乗して、あちらこちらで写生をしたと語っていました。これらの写真からニシムイの画家たちが米兵と美術を通して交流していた時代があったことがよく窺えます。

 
 博士が撮影したこれらのスライドは所謂,美しい沖縄の海や空がテーマではありません。当時カメラを所有する兵隊が少ない中で、エイベルマン博士が撮影したこれらの画像は当時のコザの人々の姿や米の収穫、破壊された那覇の姿など、戦争に疑問を持っていたエイベルマン博士の視点も感じられるものでもあります。博士は何度か「戦争によって土地を奪われる民の気持ちはわたしにはよく理解できる」とおっしゃったことがありました。スイス国籍を捨てず、アメリカ国籍を取得しなかったことも、沖縄に向けたまなざしも自己の戦争体験などに基づくものであったと察することができます。

 
 戦後はハーバード大学で長年教鞭を取り、病気の兆候や治療のメカニズムを研究し、優秀な医学博士を育て上げた事を誇りにするほど、研究や後輩の教育に熱心に取り組んだ研究者でもありました。またマサチューセッツ工科大学でも教壇に立ち、『ハーバードガジェット』新聞では長年編集長を務め、取材活動も精力的に行ってこられました。

 
 もう一度沖縄を訪れていただきたいと再三、勧めましたが、2011年1月にお亡くなりになったことが非常に残念です。これらのスライドは博士が亡くなる前、2009年にご自宅で私にプレゼントとして手渡されたものです。しかし、それでは多くの方々が見る事は不可能だと思い、どこか公的機関に寄贈をしたいと申し出たところ、「誰にでもアクセスできる公的な機関へ」とのアイディアをいただき、また玉那覇正吉氏や安次嶺金正氏が教授であった琉球大学がよいのではないかと、リナ夫人の許可をいただいて琉球大学附属図書館に寄贈を受けていただきました。

 
 1946年、1947年と2年間沖縄に駐留していた博士は、生前に多くのスライドや写真などもたくさん所有していらっしゃるとのことでしたが、2008年当時、所在が不明だったために今回の寄贈には含まれてはいません。博士がどのような風景を撮影されていたのか、知りたいと思い続けています。また、撮影場所が特定されていないものも多くあります。これらのスライドを多くの人たちに見ていただく機会を得て、撮影場所の情報提供や様々に使用していただけることを望んでいます。

 




土江真樹子(ジャーナリスト)











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